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SARASVATI
三宅千鶴のオリジナル小説ブログ 

第6章-7

「おまえ、何の謎解きやってんだよ?」
 貴大は横眼で睨みつけてくる。
 当麻は異なる眼差しでこちらを見つめる二人に向けてニコリと微笑んだ。

「何故だかずっと、織部さんのことは頭の隅に引っかかっていたんです。で、東京にいた時に役員の職権乱用して彼の個人情報を盗み見しちゃったんですけど、それで彼の育った施設がわかりました。さらに調べてみると、その施設の近くに吉祥天女を祀る寺があったんです。どうも彼はその寺の前に捨てられていたんじゃないかってところまで推察できました」

「――吉祥天女!?」
「吉祥天女には、確か双子の姉妹がいたんだったよな」
 貴大が眼を据えて言う。

「闇の力でもってこの世に厄災を引き起こす女神。黒闇天女」
 ピンと張りつめた空気がその場に流れていった。当麻はその空気を和らげるように静かに微笑んだ。

「神も仏も人が考え出したものです。その存在を科学的に立証することはできません。だから、あまり深刻に考えないでもらいたいのです」
「でもおまえは、織部を操っているのが黒闇天女だと踏んでいる。わからないのは、その女の真の狙いだ」
「仮説の類と思って聞いていただきたいのですが」
 そこに祥希が口を挟んできた。

「黒闇天女は吉祥天女の分身です。単体では存在できません。黒闇天女がいるとしたら、必ずそこには吉祥天女もいるはずなんです」
「どこに?中原は、それがどこにいると思うんだ?」
 貴大が逃げを許さない真っ直ぐな眼で訊いてくる。
 祥希は重い息をついてから応えた。

「黒闇天女が織部さんの中から出てきているのだとしたら、吉祥天女もまた、織部さんの中にいるのではないでしょうか?」
「出てこないのか、出てこれないのか。黒い女の狙いも、実はそこにあるのかもしれないな」
「やっぱり、どうしても織部さんを見つけ出して、仮説の裏付けを取らないといけないようですね」
 当麻がそう締め括ると、祥希は固い決意を込めて頷いた。

「探さなくても、あいつは来るさ」
 貴大は、ほとんど手つかずのまま残してしまった料理をぼんやりと眺めて言った。
「あいつ、と言うか、あいつを動かしている女のとりあえずの標的は、俺なんだから」

「あなたに危険な真似はさせません」
 当麻はそっと方腕を伸ばし、膝の上に置かれた貴大の手を握りしめた。

***   ***   ***   ***   ***   ***   ***

 食事処を出てから、祥希は二人と別れて徒歩でバス停に向かって行った。
 当麻が自宅近辺まで送ると申し出たのだが、祥希は一人になって色々と考えたいからと言って丁重に断った。

 貴大が「せっかくここまで来たんだからもう少し辺りを見て回りたい」と言うので、その後岩船寺に立ち寄り、京都方面に降りて行って宇治の平等院を散策した。

 そして、西大寺のマンションに戻る頃にはもうすっかり日も暮れていた。
 道中は貴大も当麻も普段と変わらないように振舞っていたが、内心ではずっと祥希から聞いた話について考えていることをお互いにわかっていた。

 宇治を出て奈良に向けてランクルを走らせる間、
「こういうことの専門家でもある合気道の先生に、こちらに来てもらうように頼んでいます。彼が到着するまで、佐野さんはじっとして、俺から離れないでください」
 当麻はそう言い含めたが、貴大が納得していないのは、完ムシを決め込んだその態度からも明らかだった。

 マンションに入り、風呂と食事を済ませてから、貴大は書斎に籠ってパソコンで何かをずっと調べている。

(佐野さん、何かしてないと落ち着かないんだろうけど、まだ怪我だって治りきってないんだから無理しないで欲しい)
 キッチンのシンクで夕飯の後片付けをしながら、当麻はホッと溜息を落とす。
(もう……ずっと、触れてもいない………)

 貴大の回復を第一に考えて、この一週間ほど彼を抱いていない。どんなに欲しいと躰の芯が疼いても我慢してきた。でももう、その我慢も限界に来ている。

(今夜から違う部屋で寝た方がよさそうだ)
 彼を傍に置いておとなしく眠りにつける自信がない。
 今を保っている抑制がブチ切れて雄の本能そのままに貴大を力づくで犯すことになってしまうだろう。

(早く佐野さんに完治してもらわないと……俺ももう……もたない………)
 片づけを終えてから、当麻はキッチンを出て書斎に向かった。

「佐野さん」
 ドアをノックして入ると、貴大はまだ奥の壁際に設置したパソコンとにらめっこを続けている。
「身体に障ります。もうベッドに入って休んでください」
「まだ眠くない」
 貴大はパソコンを見つめたまま振り返ろうともしない。

(まったく。人の気も知らないで)
 欲求不満が溜まっている分、イラッとした。
「じゃあ俺、先に寝ます。来客用の部屋にいるので何かあったら呼んでください」

「なんで?」
 ようやく、貴大は椅子をクルリと回して当麻に眼を向けた。


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