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SARASVATI
三宅千鶴のオリジナル小説ブログ 

第6章-8

「なんでおまえが客用の部屋で寝るんだ?」
「なんで――って」
 当麻はドアのノブに手をかけたまま背中で応えた。

「佐野さんにゆっくり休んでもらいたいからですよ」
「おまえが傍にいないと寒いからイヤだ」
「俺は湯たんぽですか」
 心底呆れて振り返る。

 猫のように足音もなく、いつの間にか貴大がそこに立っていた。ちょっと拗ねたような眼をして、眼鏡の奥から当麻を睨み上げている。
 そして無理難題を言う。

「俺と一緒に寝て欲しいって言ってんだぞ」
「ムリなんです」
 当麻は脱力気味に言って貴大を両腕で抱きしめた。片腕を下ろして貴大の手を捉えると、自分の股間に導いていく。

「―――っ!?」
 布越しにでもわかる、硬くそそり立つ一物に触れ、貴大の身体が驚きにビクンッと震えた。当麻は貴大の髪に顔を埋めて自嘲の声を洩らした。

「わかったでしょ。こんな状態の男をそんなに色っぽく誘ってはいけません」
「誘っちゃ悪いのかよ」
「悪いです。優しくなんて絶対にできない。今はまだあなたの身体に負担をかけたくないんです」
「優しくなんて、しなくていい」
 貴大は当麻の逞しい胸に顔を伏したまま言う。

「メチャメチャにしていんだ」
「……佐野さん?」
 片手でそっと貴大の顔を掬い上げる。その瞳は、追い詰められた獣の眼のような光を帯びていた。

「すべて忘れるくらい………俺の中をおまえでいっぱいにして欲しい」
 言わないだけど、貴大は苦しんでいた。出口が見つからないことに。友人とも思う織部の異変に何の力にもなってやれない己の無力さに。

「佐野さん、ほんとにいいの?」
「いいって言ってんだろ」
「泣いても止めてあげられないよ」
「おまえはいつだって、俺が泣こうと喚こうと、止めてくれたことないじゃないか」

「佐野さん」
「―――んっ!」
 いきなりの激しさで口づけられる。当麻の両手はもうすでに貴大との交接を求めて彼の尻肉を鷲掴み揉みしだいていた。

「もう我慢できない。ここで抱いていい?」
「……あっ……ふぅッ……っ」
 当麻の口唇が首から胸へと狂ったように激しく愛咬していく。

 その手は貴大の下肢から衣服を剥ぎ取って露わなものとし、床に這いつくばらせて男を受け入れるメスの体勢を取らせていく。貴大の高く抱え上げられた尻肉の狭間に息づく蕾が当麻の両の指で強引に押し開かれていく。

「……とうま……あっ……!」
「佐野さん……俺、もう………ッ」
 当麻は飢え切ってそそり立つ己を貴大の内部に容赦なく突き入れた。求めていた肉襞の湿って柔らかな感触に凄まじい官能の火が燃え上がる。そうして互いに名を呼び合いながら、性急に求め合っていく。

 今を忘れるため。
 そして、いずれ直面するだろう黒き異界のモノへの恐怖を忘れるために。

***   ***   ***   ***   ***   ***

(―――力が足らない………)
 闇の中、女は眠る宿主の体内から抜け出して無言で憤る。

 宿主たる男の発する気は薄い。それすなわち、気の向け所となる対象者への憎悪の念が低いことの証である。

 男の発する気の強さによって、女がこの世で使える力の強度が左右される。
 織部なる男が佐野貴大を強く憎み切れていないと言う事実は、女が貴大に致命傷を与えられないと言う事実の結果に直結していた。

 しかも、不完全体である女の力には、色んな面でもどかしい制限がかけられている。対象者である貴大に向かってしか力を放出できないと言うのもその制限の一つで、他者を照準にしても攻撃の念が飛ばない。
 さらには、貴大の傍には守護者たる男が常に存在し、女が放つ攻撃の念波を強大な愛の波動でことごとく弾き返してくる。

(策を変えるべきかもしれぬ)
 女は薄い唇をギリリと噛み締めた。
(どうしても、タカヒロとトウマを引き離さなくては………)
 女は虚ろな眼差しをガラス壁の方へ向けた。

 そこには、闇の空しか映っていない。しかし女の眼には、遥か彼方で瞬き続ける北極星が視えていた。

(この際、アノ方の御力を借りるか………タカヒロをアノ方への生贄とすれば、アノ方が眠り続ける分身を目覚めさせる力を貸してくれるやもしれん)
 このままでは時機を逸してしまう。宿主たる男が生きている間にもう二度とチャンスは巡ってこないかもしれない。

(次に人間の中に降りてくるのに、また意識が消滅してしまうほどに永い歳月を眠り待たなければいけないのか。そんなことにはもう耐えられない)
 多少の困難があったとしても、今度こそ女は目的を遂げなければならなかった。

(まず、タカヒロとトウマを切り離すことだ―――)
 女は眼を細めて北極星と、その星を司る天部に向けて強い意志を込めた念波を送った。

(北方の守護神、毘沙門天よ。おまえの細君たる者のために、その力を我に貸してたもれッ!!)
 直後、夜空を牛耳る北極星が一際大きく瞬き、闇を十字に裂くかのように青白い光を四方へと放った。


  次へ  


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