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SARASVATI
三宅千鶴のオリジナル小説ブログ 

第8章-7

(眼を開けろッ!)
 そのハザウェイの命令が心に響いたと同時、当麻は両眼を見開いた。
 闇を裂いて、すぐに視界に飛び込んできたのは、あってはならないと思っていた光景だ。

(佐野さん―――ッ!!)
 ハザウェイの抑止力がかかっているせいで金縛りにあったように身動きが取れない。
(ハザウェイ!!術を解いてくださいッ!佐野さんを助けないとッ!!)
 当麻は声なき声で叫んだ。

 だが、片手を繋ぐハザウェイはそんな当麻など一顧だにしない。
 黒い闇に濡れる彫像のように当麻の真横に立ち、黒豹めいて金色に光る眼差しを真っ直ぐ正面に向けている。
 微かに伺えるその横顔からは、一切の感情が削げ落ちて、彼が何を考えているのかまったくわからなかった。

(―――ハザウェイ………?)
 心内で師に問いかけても、反応は返ってこない。

 当麻たち三人は今、山中に開けた岩山のようなところに立っていた。
 手を繋ぎ合う三人が見つめる先に、青白い月明りに照らされて白く浮かび上がる御堂があり、その前で、貴大と織部によるリアルな鬼ごっこが繰り広げられている。

(織部さん、やめてくださいっ!!お願いですっ!!)
 ハザウェイを中に置いて手を繋ぎ合っているせいなのか、それとも、これもハザウェイの妖の術のせいなのか、当麻の胸にはっきりと、祥希の声にならない悲痛な叫び声が響き聞こえてきた。

(お願いです!!殺したいのなら佐野主任じゃなく、私を斬ってくださいッ!!)
(………中原さん)

 そうこうしている間にも、織部は銀に輝く刃を振るい、貴大に切りつけようとしている。だがその動きはどこかギクシャクとして緩慢で、貴大に逃げる余裕を与えているようにしか見えない。
 しかし、貴大の方もだいぶん長くそうやって逃げ回っていたのか、立ち止まる度に薄い胸を喘がせて苦しい息を継いでいる。

(佐野さんッ!!)
(動くな!当麻!!)
 全身に熱い気が漲った直後、すぐさまハザウェイから厳しい叱咤が飛んできた。

(もう無理ですッ!!)
 しかし、そんな制止を聞けるわけがない。
 己の生命より何よりも大事な人が殺される瀬戸際にあるのに、助けに行かないなんてできない。たとえこの命を、それで失ったとしても、だ。

(当麻!!)
 当麻がハザウェイの抑止力を振り切って駆け出そうとした瞬間、
(―――えっ!?)
 誰かが当麻の脇をすり抜けて駆け出して行った。
 それが祥希だと気づいた時はすでに遅く、彼は貴大と織部の間に立ち塞がっていた。

(中原さん!?)
「織部さん、やめてください!!」
 祥希が叫ぶ。

「―――祥希」
 その華奢なる存在を認めて、織部の漆黒の双眸にかすかな躊躇の影が揺らいだ。黒い女と織部の声が重なる沈鬱なる響きが闇にこだました。
「退け」

「いやです!!」
「中原、どけっ!」
 後ろから、貴大が祥希を退かそうと前に割り込んでくる。

「おまえはこんなとこ来ちゃいけねぇんだよッ!!」
「佐野主任こそ邪魔しないでくださいッ―――つっ!!」
 織部が手に持つ刃を天に振りかざしたのを見て取った瞬間、祥希は地を蹴り、織部の刃を持つ腕にしがみついた。

「織部さん、やめてっ!!」
 次の瞬間、祥希の身体が織部から離され宙に浮いた。
 そのまま激しい勢いで祥希の華奢な身体は地面に叩きつけられた。グキッ!と、骨が砕ける鈍い音が辺り一面に響く。

「あうっ!!」
 倒れ伏した祥希が打ち付けた右の肩を押さえつけて叫ぶ。
「中原ッ!!」
 貴大は寸時に祥希の元に駆け付けた。

「佐野さんッ!!」
 刹那、当麻はハザウェイの抑止力を全力で振り切って飛び出していく。

「中原、しっかりしろッ!」
「諸共に死ねッ!!」

 祥希を両腕で抱え上げた貴大の背をめがけて、織部が刃を振りかざした時、
「―――ッ!?」
「当麻ッ!!」
 織部の背後に回った当麻が、彼の両腕を羽交い絞めにして動けないように押さえつけていた。


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